私の心の上には、切ないほどはっきりと、この光景が焼きつけられた。
横須賀線に乗った私。発車間際に乗り込んできた小娘と2人きり、列車は動き出すのだが......。
書籍の装画やCDジャケットなどで活躍し、幅広い世代から支持を得ているイラストレーター・げみが芥川龍之介を描く、珠玉のコラボレーション・シリーズです。
自分の本棚に飾っておきたい。大切なあの人にプレゼントしたい。そんな気持ちになる「乙女の本棚」シリーズの1冊。
工程1
「小娘の存在を忘れたいと云う心もち〜」をどのような構図であれば表現出来るだろう、というところをまず考えました。
前のページまでは娘を描いているのですが、このページでは娘がいるであろう場所を削り、車内を広めに見せることで、まるで一人で車内に座っているかのように描きました。
そしてその空間全体をタバコの煙が包み込ませました。 これで一人きりの車内のという印象が強くなります。
工程2
窓ガラスに写っているのは芥川の持つ新聞です。
「夕刊の紙面に落ちていた外光が、突然電燈の光に変って〜」というとこを表現しました。 新聞の内容から当時何があったのか、少し伝わるようにしているので、是非チェックしてみてください。
どれほど芥川が疲労していたのかが分かると思います。
工程1
窓を開けようとしている」娘を見ているシーンを描きました。
「ふと何かに脅されたような心もちがして」と感じたのは芥川なのでカメラは芥川側に配置し状況を説明するような構図にしました。
この辺りのイラストを描く為には、この車体の窓の構造を調べる必要がありました。
工程2
読んで見ると「硝子戸は中々思うようにあがらない」と窓をあげると記載があるのに、数ページ先では「 硝子戸は、とうとうばたりと下へ落ちた」とあります。
考えながら読んでみると面白いかもしれません。
工程1
「汽車が今将に隧道の口へさしかかろうとしている」という瞬間を描きました。
ラフでは文字の乗る部分が明るい色でしたが、右が明るい色だとトンネルへの目線が行きづらくなるので空を明るくし、反対に文字の入る部分を暗くし、次のページへ自然に流れて行けるように描き直しました。
読んだ時からこの構図にしたいと考えていたので、ラフはすぐに思いつきましたが、問題は台車の種類を調べることでした。
工程2
この絵本を描くには、当時の客車、横須賀駅とホームの方角、娘と芥川の座席の位置関係と向いている方角などを、当時の資料と見比べながら入念に調べる必要がありました。
なので話を読みながら、その時々だけ気持ちのいいでラフが描けたとしても、全体を通して辻褄が合わなくなってしまいます。まず下調べを入念に行ってはじめてラフに取り掛かりました。
最初は車輪一つを描くだけだと考えていましたが、甘かったです。