1992年『レザボア・ドッグス』編

ブラッド・ピット

押井 レンタルビデオ屋の店員たちも積極的だけど、『レザボア・ドッグス』のプロデュースを買って出たハーヴェイ・カイテルも積極的だよね。アメリカの俳優でたまにいるんだけど、最近だとブラッド・ピットが、この典型。自分のプロダクションまで作っちゃった。プランBという名前の会社。イニシャルを逆にした名前なんだけど、ネーミングからして気が利いている。隙間を狙っていくんだ、あくまでプランBなんだっていうさ。

──押井監督お気に入りの俳優ですね。

押井 タランティーノの映画じゃないけど、ブラッド・ピットが殺し屋を演じた『ジャッキー・コーガン』(12)。あれも優れたダイアローグ映画だった。いろんな人間に会って、いろんな話をする。そうやって成立する構成になっているんだけど、ブラッド・ピットがスゴくたのしそうだった。共演相手を引っ張ってみたり、相手の芝居に合わせてみたり。寄ったり引いたり、緩急自在に演じていた。

──ブラッド・ピットといえば、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)に『イノセンス』(04)のオマージュシーンがあります。

押井 えっ?

──では、いまからブラッド・ピット出演の該当シーンを押井監督に見ていただきましょう。

押井 (ブラッド・ピット演じるクリフがドライブインシアターの横を車で通過して自宅に帰る場面を見ながら)上映しているのは『セメントの女』(68)か。『セメントの女』は見た記憶がある。

──家に帰ると、犬が喜んで飛びついてくる。

押井 この犬はピットブルだね。『ジョン・ウィック』(14)の2匹目の犬もピットブルだったよ。

──で、映画オリジナルデザインのオオカミ印のエサ缶が出てくる。

押井 ああ。なるほどね。なにコレ?

──調理しているのは、自分用の晩飯です。

押井 ずさんなメシだな(笑)。

──そしてソファにドシンと座る。『イノセンス』に似てますよね?

押井 う〜ん。まあ、どうかな。『イノセンス』は、もともとが『ロング・グッドバイ』(73)だからね。

──ああ、『ロング・グッドバイ』の猫のエサやり場面ですね。

押井 そう。『イノセンス』がカンヌのコンペに行ったときの審査員長がタランティーノだったんだけどさ。本人曰く「獲らせるつもりだったんだけど、ほかの審査員に押し切られちゃった」ってさ。本当かどうかは知らないけど。でも、そういうことがあってもおかしくはない。審査員の9人のうちの3人が女優だからね。女優たちがアニメーションに賞をやるわけがない。アニメーションは女優にとっては敵だから。アニメーションは女優の生身の演技を必要としないからね。