1998年『ベイブ/都会へ行く』編

「章立て」という優れた手法

押井 映画の構成を「章立て」にしたことも、成功の要因だと思った。

──原作の児童文学に準拠して、章立てにしただけじゃないんですか?

押井 章立てにすることで、「絵本の世界ですよ」ということを主張する。こういう不思議な世界への抵抗感をなくしていくための仕掛けになっている。章立てにして、分節化することで、はじめて成立する映画ってのがあるんだよ。クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』(94)も章立てだった。僕も『アサルトガールズ』(09)と『ガルム・ウォーズ』(16)でやったけど。テンポもよくなるし、優れた手法だと思っている。だけど、日本では嫌がられるよね。プロデューサーに提案しても、だいたい却下される。そういう「外装」を施さないことが、「大作の風格」だと思い込んじゃっているよね。

──なぜなんでしょう?

押井 不思議だよね。アメリカの映画で一時期流行った「何時何分、どこそこ」というテロップを出すことも嫌がられた。アメリカ映画は、観客を飽きさせないように5本も6本もストーリーラインを同時に引いて、それをさばくためにテロップを出すんだよね。

──「CIA本部」という表示ですよね。

押井 あれを逆に「ホームドラマ」でやったら面白いんじゃないのか?

──「AM09:00 自宅」とかですか?

押井 そうそうそう。奥さんと、旦那と、娘と、息子と、犬と、猫のストーリーラインで。いつかやってみたいな、と思っているんだけど。まあ、それはともかく、この『ベイブ』2作に関しては、CGの使用方法も的確だったし、章立てにしたことも、キャスティングも大成功だった。子ブタは、何十匹も用意したんだろうけど、前髪を塗って立たせることで、それをベイブの特徴とした。子ブタだから成立するんだよね。『刑事コロンボ』(68-03)のバセットよりも簡単だもん。僕もバセットのオーナーだけど、バセットの飼い主だったら、すぐ見分けがつくよ。『刑事コロンボ』は、出てくるごとに全部ちがうバセットだった(笑)。「舐めんな」と思ったもん。バセットの柄なんて似たり寄ったりだと思ったら大間違いだよ。同じ柄のバセットなんて1頭もいないからね。

──笑。

押井 『ベイブ』も、いまだったらCGでサイズを変えたりするんだろうけど、その手間暇を考えたら、子ブタのストックを用意しておいたほうが簡単だろうと思う。牧羊犬のボーダーコリーも素晴らしかった。ボーダーコリーにふさわしい役をボーダーコリーにやらせる。ディズニーアニメの『101匹わんちゃん』(61)にもボーダーコリーは出ているんだけど、特に1本目の『ベイブ』のボーダーコリーは2頭とも適役だった。猫は意地悪くて、羊はのんびり屋で、これも面白かったよね。人間のキャスティングだけじゃなくて、動物のキャスティングでも大成功している映画なんだよね。

書籍版ではさらに深く語っていただいております。出版をおたのしみに!!

押井守の映画50年50本