大人気イラストレーターのルーツは、あのジャンプマンガとロックバンド?/イラストレーター・げみインタビュー

書籍の装画を中心に、数多くの作品を手がけるイラストレーター・げみの最新画集『夜の隙間に積もる雨』(立東舎)が発売されました。毎年多くの作品を世に放つ、その創作のルーツには何があるのでしょうか。新作の話題を交えつつ、じっくり話を聞きました。


──今回の画集『夜の隙間に積もる雨』について教えてください。

この数年で描いたイラストのなかから、これが今の自分かなと思う絵をオリジナル・商業問わず選んでまとめました。
この画集のために描き下ろしたイラストは、全部で4枚あります。カバーにも使用した「夜の隙間に積もる雨」は、はじめは本のサイズで描こうと思っていたんですけど、個展で飾ることを考えると、横の方がインパクトあるかなと思って変えました。そうしたほうがのびのび描けましたね。
あとは「メロンソーダ」、「泳いでゆけたら」、「鳥のように君と」です。「鳥のように君と」はラフだけ昔に描いていて、手を入れていなかったんですけど、せっかくなので今回載せようと思って。
そのほか、今までに発表した絵でも、色を調整したり顔を整えなおしたりしているものがいくつかあります。

『夜の隙間に積もる雨』より。描き下ろしで画集のタイトルにもなっているイラスト「夜の隙間に積もる雨」。
『夜の隙間に積もる雨』より。描き下ろしで画集のタイトルにもなっているイラスト「夜の隙間に積もる雨」。

──「夜の隙間に積もる雨」と「泳いでゆけたら」は傘が印象的ですよね。

傘をよく描くんですよ。前の画集『げみ作品集』の表紙も傘の絵だし。初個展のタイトルが「雨の花束」ってタイトルだったんですけど、そのときに前回の画集の編集さんと出会ったんです。雨や傘が好きでたくさん描いてきたけれど、この2つは自分を前に進めてくれるモチーフだと思っているので、今回の画集では、「これまで描いてきた傘」という意味でたくさん並べて1枚の絵になればいいなと考えたんです。それが「夜の隙間に積もる雨」。総決算みたいな。見ている人のなかで、僕のいろんな絵が1つにつながればいいなって。


『夜の隙間に積もる雨』より。左:「泳いでゆけたら」(描き下ろし)、右:「穏やかな部屋」

──10代のころはどんな作品に影響を受けていましたか?

実は、何かにハマった体験がほとんどないんですが、岸本斉史の『NARUTO-ナルト-』は好きでしたね。初めて自分のお金で買ったマンガでした。唯一模写しましたね、アクションシーンとか。トーンを使わず、線1本とベタで、固さとか風とか動きを表現しているマンガなので、すごいんですよ。ネットで「画力の高いマンガ家ランキング」とかあるじゃないですか。学生のころは岸本先生が1番じゃない事に、友達と文句を言い合っていました(笑)。線だけで、こんなに表現できる人なかなかいないでしょ。たくさん描き込めばそれっぽくなるけど、この洗練された線はすごいよね、って。
僕が好きな日本画家さんも、みんな線画が美しいんですよ。でも僕は全く線画が描けない。だから好きなんだと思います。あとは親が美術館が好きだったので、小さいときからよく連れて行ってくれましたね。モネとかゴッホとかなんでも。

──絵以外だと何かありますか? たとえば音楽とか。

音楽だとやっぱりthe pillowsですね。高校2年のときに、絵の塾の先生が授業後に教室で流していたんです。ロックが好きな先生で、スピッツとかミスチルとか斉藤和義も流れていたんですけど、the pillowsだけは知らなくて、「これ誰?」って聞いたんですよ。そしたら先生が「ええぞー!」ってCD貸してくれて。それからずっと聴いてはいたんですけど、ハマったのは大学卒業してからですね。作品を作るようになってから、歌詞が体に入ってくるようになったんです。
大学卒業して、アーティスト活動を辞めてイラストレーターになろうと決めた直後ですね。ものを作る側になったとき、はじめて「歌っているのはこういうことなのかな」って歌詞が理解できた感覚があったんです。自分自身の真っ直ぐな気持ちを歌っているバンドなので、自分の苦悩とか、世の中に対して思っていることを歌詞にしているんですよ。ものづくりをする側になって世の中と自分というものを考えはじめたタイミングで、そういう歌詞が「あーわかる」ってなってハマったんです。曲はもちろんですが、歌詞とその作品が出来た時代背景、みたいな関係性を感じることができるのがすごく好きです。

──今後はどういう仕事をしていきたいですか?

「小樽」という絵は、観光の仕事がしたくて描きました。オリジナルの絵を描くときって、観光名所を描くより、どこかわからない場所を描くほうが謎めいていて神秘的なんですよね。でもあえて「THE小樽」みたいな絵で、観光スポットを描けるって、めっちゃかっこいいなって思ったんです。描いてる人もあんまりいないですし。そういう絵を描けないかなと思って、実際に旅行したときに写真を撮って、自分だったらこうやって切り取りたいな、と考えて描きました。絵の中の女の子はかき氷を持っていますが、実際にこの近くで買えるんですよ。
「観光写真じゃん」ってならない、「素敵な絵だな。あれここ小樽じゃない?」っていう流れで見てもらえるイラストを描いていきたいです。この絵を見て「ここ行きたい」って思ってもらって、ちょっとずつそういう仕事を増やしていければいいなと思っています。


『夜の隙間に積もる雨』より。左:「小樽」、右:「桜雲」

夜の隙間に積もる雨