1982年『ブレードランナー』編

ショーン・ヤングは映画史上最高のファム・ファタール

──女優陣については、いかがでしょう?

押井 ショーン・ヤングに尽きるよ。しかもファム・ファタールの完成形で完全形。ショーン・ヤングって、ほかの映画ではぜんぜんダメだよね。ただの変な女優。でも『ブレードランナー』の彼女だけは完全に別物。完璧に人造人間ですよ。サーがどうやって演出したのか聞きたいくらい。『ブレードランナー2049』でもデジタル嫁(※アナ・デ・アルマス演じるホログラムAI)で対抗していたけど、ちょっと弱いよね。とはいえデジタル嫁は大発明だし、感心はしたよ。ほんとに。

──デジタル嫁はリドリー・スコットが考えたそうですよ。

押井 あれは素晴らしい。「みんなこういう嫁が欲しいだろ」ってさ。あははは。物は食わないし、ケンカは売ってこないし。

──家を出ていかないし。

押井 ただ「抱けない」っていうね。それで、おねえちゃん(※マッケンジー・デイヴィス)を連れてきてシンクロするっていうさ。あれ、最高のラブシーンだよね。さすがに1作目と同じことをしないわけだ。いま、続編の話じゃないから戻るけどさ(笑)。印象に残るファム・ファタールってそんなにいないんだよ。『ブレードランナー』は、その決定版を出したという意味でも大きい作品だと思う。SF映画に限らず、『チャイナタウン』(74)も含めてね。ほかの映画でここまでの存在は記憶にないよ。『チャイナタウン』のフェイ・ダナウェイだって、いわば定番どおりというか、普通じゃん。ファム・ファタールってどうしても同じ芝居になってしまう。だからこれをSFという舞台にして、しかも人造人間だっていうのがね、「これは効いてるわ」と思ったもん。あれ以上のものは出てこないと思うよ。サーの『悪の法則』(13)でもちょっと出してはいるけど。

──キャメロン・ディアスですね。

押井 うん。キャメロン・ディアス。ここからは想像だけど、あれはたぶん、プロデューサーにディアスを押し付けられたんだよ。

──インパクトのあるシーンは多かったですけどね。

押井 いままでの役柄から考えればキャメロン・ディアスは頑張っているし、「よく悪女をやったよな」と感心もするけど、サー的には「足りない」んだよ。だから付け合わせにチーターを出した。チーターとセットでようやく悪女感が出た。脚本時点でそうだったとか関係ないよ。補完しなかったらたぶん持たないんだよ。サーにしては珍しく動物を出したわけ。サーは意外と動物を出さない監督なんだよ。もちろん記号としてはフクロウやヘビが『ブレードランナー』にも出てくるけど、サーの映画で動物が印象的なのは『エイリアン』の猫ぐらいだよ。僕は映画に犬を出しまくりだけどね(笑)。

押井守の映画50年50本