1982年『ブレードランナー』編

半径5メートルの世界

──『ブレードランナー』のセットデザインに関してはいかがでしょう?

押井 リアリティに感心した。『ブレードランナー』ってハリソン・フォード演じるデッカードの半径5メートルの映画だからね。だからこそ逆にいいわけだ。近未来のリアリティって、なに食って、どんな部屋で、どんな生活してるんだろうっていうことでさ。この映画はキャラクター中心でありつつも、ちゃんとそこで世界観を表現している。だからいちばん感心したのは、デッカードのアパート。「このシーンいいなあ」って思ったもん。いまでもいちばん好きだよ。あの、きったないゴミの山みたいな部屋。台所の流しに皿が突っ込んであって、あと四角いウイスキーグラス。あれが欲しくて、ずいぶん探したんだから。

──現実世界の話ですか?

押井 売ってたんだよ、現実で。合羽橋でようやく手に入れたんだけどさ(笑)。デッカードのあのアパートの部屋が、ガスで煙っていて、窓からの遮光で全部が浮かび上がっている。たまらないよね。SF映画というか、近未来映画を革新したんだよね。「こういう手があったのか!」の連続だった。それまでの、ピカピカした、レーザーがビュンビュン飛んでいるような近未来じゃなくて、生活感がある近未来。「そこで人間が生きて暮らしている」という感覚。主人公の部屋って、実は映画でいちばん注目すべきポイントなんだよ。『イノセンス』でもバトーの部屋を出したけど。主人公の部屋は必ず出さなきゃダメ。『ブレードランナー2049』のほうの主人公の、サーの前作とは対照的に何も物がないアパートもよかったよね。サーの代わりに『メッセージ』(16)のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督したんだけど、「よく分かってんじゃん!」と思ったもん。

押井守の映画50年50本