1988年『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』編

僕も宮さんも富野さんのことが大好き

押井 庵野(秀明)が同人誌を作ったんだよね(※1993年刊『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア友の会』)。世間では『逆シャア本』と呼ばれているんだけど。それで庵野が「インタビューさせてくれ」って言ってきた。「ほかならぬ『逆襲のシャア』なら何時間でも語るよ」と快諾したんだよ。で、めちゃくちゃ褒めた。

──いまや伝説の同人誌ですね。

押井 僕が『逆襲のシャア』を褒めたから、庵野が首をかしげちゃって(笑)。インタビューを依頼してきた人間なのに「なんでそこまで褒めるんだ!?」と言うわけ。「なんか企んでませんか?」って。いや、本当に、それぐらい僕は『逆襲のシャア』がお気に入り。お気に入りというか富野さんの本音に共感できたんだよね。薄々感づいてはいたんだけど、愛だの何だのという人ではないんだよ。絶望を語る人なんだよ。「人類を粛正してやる」なんて台詞は、ほかの監督が使ったら「何様だよ!」って話になるし、「思い上がるな!」と思うんだけど、富野さんが使うと、ものすごくナチュラル。

──笑。

押井 ずっとロボットアニメをやってきた富野さんだから許される台詞であり、納得できる台詞なんだよ。

──なるほど。そうですよね。

押井 富野さんのアニメは、延々としゃべっているからね。アクションしながら議論している。僕どころじゃないよ(笑)。「押井映画は台詞が多すぎる」ってしょっちゅう言われるけどさ、「だったら、なんで富野さんのことを誰も文句を言わないわけ?」って話だよね。

──恨んでいるんですね(笑)。

押井 恨んでないよ。共感しているんだよ。僕は富野さんのことが好きなんだよ。実は宮さん(宮崎駿)も富野さんのことが大好きなんだよ。宮さん、よく富野さんに電話しておしゃべりしていたからね。宮さんと富野さんって実は仲良しなんだよ。

──ええっ!?

押井 これ、面白いでしょ? 宮さんは虫プロが大嫌いだから、出崎統さんとか『あしたのジョー』(70-71)とかが大嫌いなんだけど、虫プロ出身の富野さんのことだけは大好きだった。宮さんは苦労人が好きだし、富野さんが虫プロで苦労していたからという背景もあるんだろうけどさ。