2018年9月20日に書籍『アニメ・シナリオライターへの道!』を上梓した、藤田伸三氏。氏は25年にもわたりアニメの第一線で活躍するシナリオライターで、『それいけ!アンパンマン』や『ポケットモンスター』シリーズなど、主にファミリー向けの作品を数多く手がけています。同書には師匠に当たる柏原寛司氏との対談も収められていますが、掲載できなかったお話の中にも興味深いトピックが多数ありました。その一部を、ここに公開します!
黒澤映画のベストワンは?
柏原 藤田君は、昔の台本を集めてるんだっけ?
藤田 ええ。特撮物を中心に、好きなジャンルや好きな作品のホン(脚本・シナリオ)を。これはもう完全な趣味で、仕事には全然関係無いんですけどね。
柏原 でも、それは確かに必要だよね。俺なんか、黒澤明の『用心棒』が日本映画のベストワンだけど、大学受験に落ちて浪人しているときに、図書館で遊んでて『用心棒』のシナリオを読んだのね。それを見て「面白いな」「俺が好きな映画はこう書かれているのか」って思ったもん。昔から同じ映画を何回も観る癖があって、『用心棒』も10回くらい観てたんで、セリフなんか覚えてるわけです。それで、「あ、ここはこう書いてあるのか」って。シナリオを借りてきて写しちゃったら、それで大体シナリオの書き方が分かった。「あのシーンはこう書いてあるのか」っていうのが、わかるからね。あれが一番勉強になったな。あのあとは、黒澤明の『椿三十郎』から何から、かなりの作品を写しましたよ。
藤田 黒澤映画の中では、僕も『用心棒』が一番好きでシナリオを写しました。書き写すとわかるんですが、実際の映像ではシーンやセリフを微妙に入れ替えたりしているんですよね。シナリオはシナリオでちゃんと成立しているんだけど、でも映像の方がさらに良いっていう。僕も好きな映画や好きなライターの作品は、どう書いているか、書かれてあるかがとても気になるんです。なので、修業時代にそういう作品のホンが手元にあったら、「ちょっと写そうかな」って思うんじゃないかと。ただ、実際に写すのはなかなか面倒でもあって。シナリオ教室やシナリオ講座の講師の方はよく「シナリオを写した方が良い」と言いますが、突き抜けて好きでなければやるのは難しいだろうな、とは思います。
柏原 まあでも、シナリオを写せば書き方なんかは一発でOKでしょう。
藤田 ちなみに日本シナリオ作家協会(作協)の講座を受講するとき、申し込み用紙に「好きな映画を挙げてください」という欄がありますよね。僕は『用心棒』と『人情紙風船』と『キングコング対ゴジラ』って書いて出したんですけど、面接で「作品の傾向がバラバラだけど、君の趣味はどうなってるんだ?」って言われました(笑)。その3つの中でシナリオを写したのは『用心棒』だけです。ただし、『キングコング対ゴジラ』なんかは、それこそ何十回、もしかしたら何百回も観ているから、セリフはすべて憶えてしまいました。
柏原 俺は作協の面接を受けたのが、『人情紙風船』を書いた三村(伸太郎)さんで。でも、全然そんな作品は見ていなくて(笑)。「君、十年はかかるけど、辛抱できる?」と言われて。とりあえず「はい」って言っておいたけど、10年はかからなかったな。
柏原寛司氏
監督志望からシナリオライターへ
藤田 あらためて伺いますが、柏原さんはシナリオの世界にどういう経緯で入られたのですか?
柏原 僕は、もともとは監督になりたかったんです。ただ、全く勉強ができなかった。国語も2だし。で、高校のときは野球部で、しょっちゅう他の高校と揉めていた。だから全然物書きタイプではなくて、現場向きなんですよ。それが、「監督になるにはホンを書けなければいけない」という黒澤明の言葉をどこかで読んじゃったおかげで、浪人している間に、作協がやっているシナリオ研究所に入っちゃった。代々木ゼミナールに通っていたんだけど、後期の金は予備校には払わずに、免許を取っちゃった。それで、勝手にシナリオ研究所の方へ行ったというね(笑)。
藤田 豪快ですね(笑)。
柏原 それでシナリオを勉強していたんだけど、映画会社の助監督試験に受かるには大卒じゃないとダメだっていうので、大学を受け直した。だから、3浪した形で日芸(日本大学芸術学部)に入っているわけです。ただ日芸も、映画学科はレベルが高いので、一番レベルの低い文芸学科というところに入っている。文芸学科で映画人は、俺と深作欣二さんの2人しかいないんだよね(笑)。深作さんも勉強ができなかったから、『仁義なき戦い』なんでしょう(笑)。で、大学の2〜3年の頃からシナリオは書いていて、『クレクレタコラ』(フジテレビ)がその頃かな。
藤田 柏原さんのデビュー作は、『クレクレタコラ』ですよね。
柏原 そのあとは大学4年のときに『傷だらけの天使』(日本テレビ)と『俺たちの勲章』(日本テレビ)を書いて、卒業した年にうまい具合に日活の助監督試験があったんですね。勉強はできなかったけど、カンニングは得意でAが多かったので、大学からの推薦枠には無事に入ってさ。それで試験に行こうと思ったら金を忘れて、交番で「金を貸してくれ」「貸さない」で喧嘩して、試験には行けなかった。それで、そのままライターになっちゃった。
藤田 その試験に行っていたら、助監督になっていたかもしれないですね。
柏原 でも可能性は低いね。一次試験は学科だから。他の会社の助監督試験がもう無い時期だったから、現場はそこしかない。だから国立のヤツとかも来ていて、一般常識が無い日芸のヤツが筆記で受かるわけが無かったからね。
藤田伸三氏
新しいセンスが求められている
藤田 いろいろ環境が変わってきている中で、シナリオライターを目指す人はどういう心構えでいれば良いと思いますか?
柏原 映像の分野に関しては、配信なんかが出てきて、アニメも含めて形は変わっていくかもしれない。でも、無くなることは無い。メディアは変わるけど無くなりはしないので、ライターの仕事はずっとあると思う。ただ、新しいセンスを持っている人が求められるとは思うな。
藤田 新しいセンスですか? 確かにそうかもしれませんね。
柏原 昔は、テレビドラマって1年以上とかの連続ものが多かったんです。そうすると、ライターを次々に入れられるから新人を出せるわけ。ずっと書いてるヤツはもう書くのがイヤになってるから(笑)、若いヤツを入れてね。ギャラも安いし、そこからデビューしやすかった。でも最近のテレビドラマは10回とか11回なので、1人で書いてしまう。だから、なかなかデビューしにくい。そうすると、どこがデビューしやすいかと言うと、アニメなんだよね。アニメは昔の連続ドラマ的な、新人デビューの受け皿みたいなことになっている。だからアニメから出て、どんどん他の分野に行くっていうのも手だよね。でも、今は最初からアニメを書きたいっていう人が多いの?
藤田 多いかもしれないですね。また深夜枠の番組も多くなっていて、そこは子供向けとは全然違うフィールドっていうかジャンルになっています。
柏原 じゃあ、ある程度は冒険できるんだ。
藤田 ええ。逆にそっちの番組を書いているんだけど、本当は朝の子供向けを書きたいっていう人もいるようです。僕らくらいまでの世代は、深夜の番組も朝の作品も制作会社やプロデューサーは同じだから、その時々で深夜を書いて、朝も書いてっていう感じだったんですけど、徐々に分かれているというか、専門化しつつある、という状況ですね。
柏原 今は制作会社も多くなったしね。昔みたいに、大手が数社っていう感じじゃないからなぁ。そう考えてもやっぱり、アニメから入っていくのは良い方法だと思うよ。
プロフィール
柏原寛司(かしわばら・ひろし)
1949年東京日本橋生まれ。1973年『クレクレタコラ』でデビュー。
『大追跡』『プロハンター』『西部警察』『あぶない刑事』などアクション&ハードボイルドを中心に作品多数。
アニメ・特撮は『キャッツ・アイ』『ルパン三世』『名探偵コナン』『ゴジラvsスペースゴジラ』『ゴジラ2000ミレニアム』『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』など。
藤田伸三(ふじた・しんぞう)
シナリオライター。1967年生まれ。広島県出身。
日本シナリオ作家協会会員
<代表作>
▼テレビアニメ
『それいけ!アンパンマン』『ポケットモンスター』シリーズ『フューチャーカード バディファイト』シリーズ『デュエル・マスターズ』シリーズ『パズドラ』『それでも世界は美しい』『無限戦記ポトリス』『爆闘宣言ダイガンダー』『ルパン三世 炎の記憶~TOKYO CRISIS~』『ルパン三世 愛のダ・カーポ~FUJIKO'S Unlucky Days~』『マスターキートン』『ToHeart2 トゥハート2』、他多数
▼劇場アニメ
『劇場版デュエル・マスターズ 黒月の神帝』『それいけ!アンパンマン だだんだんとふたごの星』『劇場版甲虫王者ムシキング グレイテストチャンピオンへの道』、他多数
▼OVA
『真ゲッターロボ』シリーズ『マジンカイザー』『エクスドライバー』、他多数