川崎ヒロユキ+藤田伸三対談「『発見』をできる人が脚本家を続けていける」

2018年9月20日に書籍『アニメ・シナリオライターへの道!』を上梓した、藤田伸三氏。氏は25年にもわたりアニメの第一線で活躍するシナリオライターで、『それいけ!アンパンマン』や『ポケットモンスター』シリーズなど、主にファミリー向けの作品を数多く手がけています。同書には同業の川崎ヒロユキ氏との対談も収められていますが、話は盛り上がりに盛り上がり、とてもすべてを掲載することはかないませんでした。その一部を、ここに公開します!

19歳でデビューした川崎ヒロユキ氏

藤田 川崎さんのデビューの経緯から、まずは聞かせていただけますか?

川崎 高校生くらいのときには、特撮の現場に行きたかったんです。それで、8ミリ映画なんかも撮っていまして。そうするとシナリオが必要なので、新井一さんがやっていた通信講座でシナリオの勉強を始めたんです。でもその教材は、母親に見つかって捨てられてしまった(笑)。

藤田 捨てられてしまった?

川崎 ウチは小さな会社をやっていたので、「後を継げ」と言われていて。それで教材を捨てられて、次にダビッド社の『シナリオハンドブック』を読んで、「これでシナリオを書ける」って思いまして(笑)。その後に、専門学校の東京映像芸術学院特撮クリエイター科というところに行きました。

藤田 「特撮クリエイター科」というのは良い科ですね。

川崎 そこで特殊芸術の勉強を始めたんですけど、そういう名前の学校だったので、全国からできるヤツが集まってくるんですよ。造形をやらせたらプロで、みたいなね。途中でハリウッドに行っちゃうヤツもいましたし、それで挫折しまして......。「ダメだ、勝てるものが1つも無い」ってなったときに、「ああでも、シナリオの勉強をしていたな」って思い出したんです。そのあと、押川國秋さんのシナリオ講座に通って半年くらいしたら、『月刊シナリオ』に「小山高生さんのシナリオハウスが始まります。アニメのシナリオを教えます」というのが載っていて。今度は、そこに通うようになりました。

藤田 シナリオハウスに行かれる前に、既に下地があったんですね。

川崎 そうですね。シナリオハウスには24人の生徒が集まっていて、僕と荒川稔久さんが小山先生から「こういう番組があるんだけど、やってみないか?」と言われて、それでデビューしたのが19歳のときでした。

藤田 それは早いですね。

川崎 プロットだったんですけど、でも一応テレビに名前を出していただいた。それから専門学校2年目で、講談社の『マガジン』でマンガのコンテスト、原作のコンテストをやるというので応募したら、ストーリー部門でグランプリをいただきまして。そうこうする内に、師匠から「みんなで集まって事務所を作るから、来ないか?」と誘っていただいた。そういう経緯ですね。

藤田 小山さんはお弟子さんがたくさんいらっしゃいますけど、川崎さんは最初期だったんですね。

川崎 そうですね。ぶらざあのっぽができる前でしたから。

川崎ヒロユキ氏

仕事が無いときの過ごし方

藤田 そこからずっと仕事を継続されているわけですから、すごいですよね。

川崎 でも、いまやっている『バディファイト』に入る前の1年くらいはちょっと仕事が無くて、これは単純に発注が来なくなったんですね。あと仕事が途切れたのは、『ガンダムX』を書いたあとで、翌年さすがに「1年休もう」って休みました。その2年以外は、たぶん何かは書いています。

藤田 休んでいるときは、充電期間ということですか?

川崎 『ガンダムX』の翌年は、友達と一緒に自主映画のイベントをやったりしていました。最初は「司会をやってくれ」と言われていたんですけど、司会だけというのもアレなので、「俺も撮るよ!」ってわけの分からないことを言って映画を撮りました(笑)。1999年ごろだったかな?

藤田 それはどういう作品だったんですか?

川崎 言うのも恥ずかしい、コメディSFです(笑)。スケジュールが無かったので、フィルムは無理ということでVTRにして、わざわざガサガサのブルーバックとかを使って。しかも自分も出ていて、ほぼほぼ主役っていう(笑)。

藤田 面白そうですね。ぜひ拝見したいです。

川崎 でも近年の仕事が無かったときは、発注が来ていないので、結構焦り的なものはありました。それで筆が鈍らないようにと思って、月に1本はオリジナルでホンを書いていましたけど。

藤田 そこはすごいと思います。

川崎 ちょっと病的な感じだけど(笑)。

藤田 いやいや、見習いたいです。自分の場合は遊んでしまいそうですから。

川崎 でもシナリオを書くのって、遊びっぽいところがありませんか?

藤田 仕事だと思うとなかなかしんどいところもあるし、さりとて全部が遊びかというと、そういうわけでもないし。微妙なところですよね。

藤田伸三氏

シナリオの醍醐味とは?

川崎 シナリオって、例えば一晩寝なかったりすれば間に合うじゃないですか? だから「さあ、やるぞ!」っていう感じがあるんですよ。僕は集英社でラノベも書いているんですけど、あれは一晩や二晩では書けないですから。

藤田 それは分かりますね。テレビアニメは特にそうで、切羽詰まったらなんとかなる・なんとかするっていう感じで。とりあえず打ち合わせに出せるものができれば、そこからあとは直していけば良いっていうことで。

川崎 僕もブワーって書いちゃうことがありますね。でも今思い出すと、結構荒っぽいものを書いていたと思います。

藤田 そのあたりが難しいのは、一気に書くと、ある種の勢いが出たりもする。丁寧に書くと、逆にダメかもしれないという場合もある。

川崎 マンガ家さんの描くアクションの線で、バッバッって勢いがあるみたいな感じですね。これは、シナリオの醍醐味と言えば醍醐味ですよね。あとは、逆に落ち込んでいるときに書いている方がしっとりした場面が良い感じになったり。シナリオには、そういう生モノっぽいところが結構ある。

藤田 何かが乗り移ったかのように書くときはありますね。でも、僕にはなかなか乗り移ってくれない(笑)。切羽詰まらないと、乗り移ってくれないんですよね。

川崎 よく脚本家のことを知らない人の勘違いで、「パソコンとかを使っているから速いんだよね」っていうのがあって。我々は考えながら書いていくので、そんなに速度は出ないんです。

藤田 そうですよね。これは人それぞれでしょうが、僕の場合は前半三分の一くらいまでの執筆にやたらと時間がかかるんです。そこを超えると、すごく速くなる。後半は速いんですけど、前半はうんうん唸っていますね。

川崎 僕はAパート、最初の35枚を書くのに4時間くらい。そこからBパートに入るんですけど、新しく書く前に、必ず頭から見直すんです。そうすると、「ここは直す」「ここは直す」ってなる。

藤田 それは偉いと思いますね。

川崎 とにかく、まず書いちゃうっていうスタイルですね。

藤田 そういうタイプの人の方が、きちんと締切を守るし書くのも速いんです。僕は最初のシーンを書いて次のシーンを書く前にまず見直して、次のシーンを書いてまた最初から見直す、ということをやっているので、前半で時間がかかってしまう。後は見直すこともなく最後まで一気に行けるぞ、というポイントが、シナリオを書くたびに毎回あって、それが大体三分の一あたりなんですよね。

傲慢さと謙虚さの折り合うところ

藤田 この仕事って、続けていくことで分かるところもありますよね。デビューしてすぐのころは何も分かっていないから、今考えると、自分でも「ひどいものを書いていたな」っていう作品もある(笑)。もっと言うと、今やってる仕事でも、もしかしたら気が付いていないだけで......。

川崎 また何年後に見たら......っていうね(笑)。でも、やっぱり体で学んでいくことは多いんですよ。ある作品で監督さんと「主人公に友達ができたんだけど、それが実は敵の息子だった」という話を書いたときに、シナリオがすごくうまいこといったんですね。「もっとこうしよう」「ああしよう」なんて言い合って、天下を取った気分(笑)。でもよく考えたら、そんな話はいくらでもある(笑)。だけど、そのときは「発見」なんです。その「発見」が大事で、よくある設定だったとしても、自分の中から出てくるとそれは「発見」なんです。

藤田 確かにそうですね。

川崎 見る方は「お約束」で済ますんですけど。

藤田 そういう、「自分に書けるとは思っていなかったもの」が書けたときの喜びや発見、僕にも経験があります。でも冷静に見ると、それはありきたりの内容だったりもする。自分で考えているほどには自分は書けない、ってことはよくありますよね。

川崎 書ける気になっているだけでは、書けないです。やっぱり書いてみて、いろんなところに落とし穴や地雷があって、その「発見」をできる人がたぶん脚本家を続けていけるのかな。

藤田 ある程度傲慢なところと、ある程度謙虚なところが上手く折り合っている、ということですかね。

川崎 まあ、脚本家の定義も難しいですけどね。でも僕が思う脚本家は、どの現場でも「はじめまして。よろしくお願いします」って入っていって、ちゃんと決定稿を出して帰って来れる人。誰からか紹介されて、どこかのオフィスに行って、初めて会う監督さんと打ち合わせをして、シナリオが決定して、ちゃんとギャラがいただける。これが僕の考えるプロのライターですね。だから大監督の横に付いているような人は、僕はあんまり好きではない。「それってただの動くワープロじゃん」って思ってしまう。もちろん、人それぞれですから良いんですけどね。

プロフィール

川崎ヒロユキ(かわさき・ひろゆき)

中学生の頃から独学でシナリオを学び専門学校在籍中に『ドテラマン』で脚本家デビュー。講談社少年マガジンのコミックプランナー大賞・ストーリー部門で最優秀賞を受賞する。卒業後は師匠の小山高生が主催する『ぶらざあのっぽ』のライターとなりやがてフリーに。以後『機動新世紀ガンダムX』『山賊の娘ローニャ』『トミカヒーロー・レスキューフォース』『フューチャーカード・神バディファイト』など多くの作品に参加する。

藤田伸三(ふじた・しんぞう)

シナリオライター。1967年生まれ。広島県出身。

日本シナリオ作家協会会員

<代表作>

▼テレビアニメ

『それいけ!アンパンマン』『ポケットモンスター』シリーズ『フューチャーカード バディファイト』シリーズ『デュエル・マスターズ』シリーズ『パズドラ』『それでも世界は美しい』『無限戦記ポトリス』『爆闘宣言ダイガンダー』『ルパン三世 炎の記憶~TOKYO CRISIS~』『ルパン三世 愛のダ・カーポ~FUJIKO'S Unlucky Days~』『マスターキートン』『ToHeart2 トゥハート2』、他多数

▼劇場アニメ

『劇場版デュエル・マスターズ 黒月の神帝』『それいけ!アンパンマン だだんだんとふたごの星』『劇場版甲虫王者ムシキング グレイテストチャンピオンへの道』、他多数

▼OVA

『真ゲッターロボ』シリーズ『マジンカイザー』『エクスドライバー』、他多数

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