今回のイラストに関して
Q 団鬼六さんとのかかわりが深いということで、今回の『SMに市民権を与えたのは私です』ではカバーのデザインとイラストレーションをお願いしたのですが、ご快諾いただけて、素晴らしい装幀に仕上げていただきうれしいです。
A どこかにSMっぽい感じが残っていて、絵はそんなにリアリズムではなく......今回はそういう感じをちょっとシンボリックに描きたかったんですね。国籍不明の女の子で、少し髪の毛もカールしていて、裸ではなく、靴だけ履いているという、ちょっと変な、ナンセンスな感じです。花の大きさとか......花が尻尾になっていて、尻尾もちょっとアヌスに差し込んでいるような苦痛もかすかに感じて、それが蛇にもなっている。団さんのレパートリーの『花と蛇』のイメージもありますね。
Q 靴がかわいいですね。
A ちょっと中国風な感じで、でも中国にこういうのがあるかは分からない、適当ですけど(笑)。日本のSMとヨーロッパのSMでは、ヨーロッパは結構器具を使ったりとか、革の衣服があったりして、どこかにコスチュームがあって、どこかが裸ということが多いんですね。でも、日本は違いますよね。特に団さんは、そんなにハードな感じではなかったし。シークエンスとしては、普通の女性や名家の奥さんが身を落とす、縛られていく......そういうものがお好きなのかなっていう感じもしますよね。あんまり、"◯◯縛りで吊るす"とかっていうのではなく、精神的なこととかの方がね。
Q いわゆる"ソフト派"ということですね。
A でも、SM以外では割とユーモラスな作品も多いですよね。だから僕も、挿絵では結構ユーモラスな絵があります。あと『美少年』なんかは、同性愛的な小説だったりして。この『SMに市民権を与えたのは私です』は、ちょっと面白くしているところもありそうな感じがしますけど(笑)。たこ八郎とか、いろんな人が出て来ますよね。親分肌みたいなところがあったのかなって、思います。小説を読んでいても、そういうシークエンスが多いですから。
Q 鬼プロでは映画、雑誌、写真集などの事業をたくさん手がけられていますから、実際に親分肌だったんでしょうね。宇野さんがかかわられた日々の団さんは、どんな方でした?
A 着物が多かったという記憶ですね。そういう情景は覚えているけど、あんまり話の内容なんかは覚えていないんです。これは誰でも同じで、例えば寺山修司とどんな思い出があるかって聞かれても、ほとんど無いんですよねぇ。ドイツのエッセンという都市の劇場があって、そこでドイツ人による寺山修司の演劇をやったときに、僕は美術で半月くらい同じ宿舎にいたけど、何を話したのかあまり覚えてない。当時は一緒に仕事をすれば、理屈っぽく、思想がどうだとか、コンセプトがどうとか、何にも言い合わないでも、結果でちゃんと融合していたみたいな......そういう面白い時代だったんです。時代を共有していると、何だか通じ合っていたんでしょうね。
1934年名古屋生まれ。名古屋市立工芸高校図案科卒業。カルピス食品工業、日本デザインセンター、スタジオ・イルフイルを経てフリー。日宣美特選、日宣美会員賞、講談社出版文化賞さしえ賞、サンリオ美術賞、赤い鳥挿絵賞、日本絵本賞、全広連日本宣伝賞山名賞、読売演劇大賞選考委員特別賞等を受賞。1999年紫綬褒章、2010年旭日小綬章受賞。 主な作品に「宇野亜喜良60年代ポスター集」「奥の横道」「MONOAQUIRAX+」「宇野亜喜良クロニクル」、絵本に「あの子」(今江祥智・文)「白猫亭」「上海異人娼館」(寺山修司・原作)「おおきなひとみ」(谷川俊太郎・詩)「X字架」(穂村弘・文/短歌)など。 刈谷市美術館、Bunkamuraギャラリー他、個展多数。キュレーターや舞台美術も手がける。TIS会員。