僕は誰かに何かを習ったことが無い 手島将彦インタビュー
書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能を活かす方法』では、「元バンドマンでマネージメントの経験もある専門学校の新人開発室室長」という立場で発言をされている手島将彦さん。しかしその一方で彼は、人気ブログ「日々の料理」(http://blog.livedoor.jp/monday_friday/) の執筆者であり、「男の料理人気ランキング」の上位常連ブロガーという顔も持つ。さらには保育士の資格も取得と、幅広い分野に興味をお持ちの方なのだ。書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能を活かす方法』に通底する「多様性を担保したい」という考えは、そんな彼だからこそのものなのかもしれない。今回のインタビューでは、手島さんのパーソナリティにぐっと迫ってみた。
撮影:高見知香
専門家同士の対談でないのも、良いバランスになった
——今回の『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能を活かす方法』は、対談形式でサクサク読めるのが良かったです。どうしても難しい専門用語が出てきがちな分野の本ですけど、話し言葉でキャッチボールしている感じだったので、とても読みやすかったというか。
手島 本田先生(共著者の本田秀夫氏)に参加していただいた公開講座やイベントでも、そこは結構意識したところですね。 自分が講演会に参加する場合は、もともとその分野について興味があったり基礎的な知識があったりした上で「勉強をしよう」という意欲を持っているので話についていけますけど、全然関心も知識も無い人にも聞いてもらおうというのであれば、ちょっと違うやり方の方がすっと入っていくだろうなって。また、これまで関心のなかった人たちに気づいてもらえるということが重要なことでもあります。それで今回の書籍も対談形式にしましたし、専門家同士の対談ではないのも、良いバランスになったのではないでしょうか? 読者が疑問に思うようなこと・質問したくなるようなことを対談の相手が柔らかく聞くことで、読むストレ スを軽減するというか。
——一方で本田さんもビッグバンドの経験者だったりして、音楽に造詣が深かったのも会話が弾んだ一因でしょうね。
手島 ミュージシャンの気持ちをよくお分かりでしたし、実例としてご友人のお話も披露していただきました。そういったこともありつつ、基本的に本田先生の話は、すごく分かりやすいですよね。毎日のようにさまざまな方を診察されていらっしゃるからかもしれませんが、言葉がすごく分かりやすいんですね。それこそ子どもから大人まで、いろんな個性を持った人々に分かる言葉で話さないといけないわけでしょう。その辺も、本書の分かりやすさの大きな原因になったのだと思います。
興味が向かないと何もしない
——手島さんご自身は専門学校の新人開発室室長でありつつ、お料理ブログを毎日のようにアップして、最近は保育士の資格も取得と、すごくパワフルですよね。いろいろなものにはまって、深く掘り下げる方というイメージです。
手島 でも、僕はある程度までしか掘り下げられないんですよ。自閉症スペクトラムの傾向が強い人ほどのこだわりの強さはおそらく無いので、それにはかなわないなとは思いますね。
——とはいえ、その傾向はありますよね?
手島 確かに、毎日料理を作ってブログに上げ続けること自体に、そういう自閉症スペクトラムの人特有の「こだわりが強 い」とか「ルーティーンを好む」という要素が出ているかもしれないですね(笑)。あと、何かにはまった時の力はそれなりにあるという自覚もあります。保育士試験も結構範囲が広いんですけど、結局、仕事をしながら独学で取得しましたし。パーソナリティのことでいうと、僕は誰かに何かを習ったことが無いんですね。塾も行ったことないですし、お稽古事もしたことがない。さらに言うと自動車免許も教習所に行かずに府中警察署の免許センターに直接行って試験を受けてとる、俗にいう「一発試験」というやつでとりました。だから何か興味が向けば自分で勝手にやってしまうところがあります。逆に言えば、興味が向かないと何もしない。親からしたら、何にもお金がかからなかった子どもなんです。
——「興味が向かないと何もしない」というのは、本書のコンテンツにありそうな言葉ですね。
手島 「何かやってみたら?」って言われても、興味が無いとやらないんです(笑)。習い事もやりたくないし。でも、勉強とか本を読むのは好きだったから、勝手に勉強していた感じです。それが中学くらいから音楽が大好きになって、小遣いをフルに使ってガンガン買うようになるわけですよ。じゃあちょっと自分も弾いてみたいなと思って、自分もギターを買ってみたりして……。そこからはロック少年ですね。
保育士は音楽を活かせる仕事でもある
——手島さんが保育士の資格を取ろうと思ったきっかけは?
手島 これは、子どもができたのが一番のきっかけですね。あとは、妻が幼稚園の先生だったりするので、育児が始まって、いろいろな子育て本なんかを見たり、ネットの知識なんかも入ってきたりするんですけど……。僕は「◯◯教育法」みたいなものをあまり信用していないんで す。それで、とりあえずオーソドックスなところを知りたいなと思ったら、保育士の資格が一番オーソドックスなはずじゃないか? と思ったんです。 少なくともこの国が保育の基準と認めたもの、国家資格ですから。そう思ったら「じゃあちょっと勉強してみるか」という気分になりまして。そこでスイッチが入ったんです(笑)。それで保育士の資格のテキストを勉強していると、目の前で同じことが起きているわけです。例えば、「9ヵ月だったら何をする」とか。「ああ、今ちょうどそうだな」っていう感じで並行して勉強をして、ついでに資格を取ってしまった。それが一番の理由です。
——変な言い方ですが、趣味と実益を兼ねて資格を取得した。
手島 それともう1つは、ちょっと音楽とも関係していて。実技試験では『音楽表現に関する技術』、『造形表現に関する技術』、『言語表現に関する技術』の3科目から2科目を選択して受験するんです。その中の音楽表現の試験はピアノ、ギター、アコーディオン、いずれかの楽器を使用した弾き歌いなんです。だから、音楽の演奏ができるひとは試験でちょっと有利ですし、実は保育士は音楽を活かせる仕事でもあるんです。そこで僕が試験を通れば、保育に興味がある学生になにか協力することができるかもしれない。あるいは、保育士なんて考えたこともなかった学生に、保育士は音楽を活かせる可能性があることを教えてあげられるかもしれません。そしてミュージシャン仲間には、「もう1つの仕事として、例えば保育士とかどう?」っていう提案をすることもできるかもしれません。保育士は今その待遇の悪さが社会問題になってはいますが、やりがいのある価値ある仕事であることは間違いないですし。また、言われないと気づかないことってあると思うんですよ。
——確かに「言われてみれば……」です。ミュージシャンも「複業」という考え方が一般的になってくれば、保育士というのは技能を活かせるわけですから良い選択肢ですよね。ありがとうございました。
手島将彦(てしま・まさひこ)
鹿児島県出身。出生地は大分県日田市。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。ミュージシャンとして数作品発表後、音楽事務所にて音楽制作、マネジメント・スタッフを経て、専門学校ミューズ音楽院・新人開発室、ミュージック・ビジネス専攻講師を担当。多数のアーティスト輩出に関わる。保育士資格保持者でもある。